甲状腺疾患と妊娠

甲状腺疾患と妊娠

甲状腺ホルモンとは

甲状腺とは喉仏のあたりの皮下にあるホルモンを分泌する器官です。 ここから分泌されるホルモンを甲状腺ホルモンと言います。
甲状腺ホルモンはトリヨードサイロニン(T3)サイロキシン(T4)の2種類あります。 これらのホルモンは海藻などに含まれるヨウ素(ヨード)をもとに、甲状腺の中の細胞で合成されます。

ホルモンとしての力はT3の方が強いのですが、血液中を循環する甲状腺ホルモンのほとんどはT4です。血液中ではこれらのホルモンは結合グロブリンと結合してホルモンとしては働いていないません。そのため、甲状腺ホルモンの検査をするときは結合していないホルモン(これを遊離ホルモンといいます)、遊離サイロキシン(FT4)を主に測定します。

甲状腺ホルモンは脳の下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)という上位のホルモンにコントロールされています。
ホルモンには「フィードバック」という調節機能があります。

下位のホルモンであるFT4が低下すると、その低下が上位ホルモンの分泌器官である下垂体に「フィードバック」され、「FT4が下がってますから甲状腺を刺激するホルモン(TSH)を分泌してください。」とTSHが上昇してFT4を増加させようとします。

逆にFT4が増加していればTSHは低下するという関係があります。
そのため、甲状腺機能を検査するときはT4とTSHを同時に測定し総合的に判断する必要があります。

甲状腺ホルモンの働き

甲状腺ホルモンは全身の細胞に作用します。
主にエネルギーを産生し、全身の活動性をあげる働きのあるホルモンです。 元気にするホルモンという感じですね。

このホルモンが分泌されると、心拍数があがり、汗をかき、基礎代謝が増加します。 甲状腺のホルモンが沢山分泌されると元気になりすぎる、分泌が低下すると元気がなくなると覚えておいてください。

妊娠中の甲状腺の変化

妊娠が成立すると12週ころまで増加するhCGというホルモンとTSHの構造が非常によく似ているため、つわりのある時期は一時的に生理的な甲状腺機能亢進症となっています。

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甲状腺機能亢進症(バセドウ病)と妊娠

バセドウ病とは

何らかの理由で甲状腺ホルモンが沢山分泌されて、甲状腺の機能が異常に高まることを甲状腺機能亢進症といいます。 甲状腺機能亢進症を起こすもっとも多い原因が「バセドウ病」です。

機能亢進症の症状は元気がよくなりすぎて情緒不安定となり、手の指が震えたり、動悸を感じるようになります。 沢山の汗をかき、暑がり、皮膚は湿った感じとなります。 基礎代謝があがるので体重が減少し、甲状腺が腫れたり目が飛び出してきます(眼球突出)。

バセドウ病は人口1000人あたり3人ほどの頻度で、圧倒的に女性に多い病気です。 若い方の罹患も多く、妊娠と合併する頻度も高いですね。 外来をやっていて妊娠と合併する疾患の中では、比較的良く見かける疾患です。 バセドウ病は自分の細胞を刺激してしまう「自己免疫性疾患」の代表的なものです。

甲状腺をコントロールしている脳下垂体から分泌されるTSHホルモンを受け取る受容体という構造(レセプターといいます)が甲状腺の細胞の表面にあります。 このTSHレセプターにくっついてしまう自己抗体が自然に作られてしまうのがバセドウ病の原因です。 自分を攻撃してしまう自己抗体を作ってしまう訳です。 この抗体をTRAb(抗TSHレセプター抗体;anti-TSH receptor anitbody)といい刺激型(TRAb)と阻害型(TSBAb)などが含まれます。

TRAbが多いほど甲状腺機能亢進症状が強いので、バセドウ病の重症度を判定するのにTRAbがよく利用されます。

バセドウ病の妊娠中の管理

バセドウ病があっても妊娠継続は可能です。
しかし、薬剤などでちゃんとコントロールされていないと流産、早産、死産が増加します。 また胎児の発育が不良となったり、妊娠高血圧症候群を起こしやすいとも言われます。

出生後の赤ちゃんに新生児甲状腺機能亢進症を引き起こすこともあり十分な管理が必要となります。 赤ちゃんの亢進症症状は生後4-5日位かららではじめ数ヶ月持続するため出生との注意深い観察が必要です。 頻脈や刺激に反応しやすい、哺乳意欲がとても強いなどの症状があります。 妊娠中の母体のTRAbが高い場合や甲状腺亜全摘術後はハイリスクといえます。

バセドウ病は妊娠初期にやや悪くなり、中期から後期でやや軽快し、産後にまた悪くなるという特徴があります。 妊娠初期に悪くなるのはhCGの影響で、産後に悪くなるのは妊娠中にやや免疫抑制状態だったものが元に戻るからです。

甲状腺機能亢進症が急激に増悪することを甲状腺クリーゼといい、母児ともに死亡する可能性が高いとても怖い状態です。ただ、クリーゼが起きるのはバセドウ病が未治療であったり、薬剤によるコントロールがうまく行われていない状態のときが多く、そういう意味でも必要な薬剤はちゃんと内服する必要がありますね。

妊娠中の甲状腺機能亢進症の治療は抗甲状腺薬が中心となります。 使用される薬剤は以下の2種類です。名前が似ているので注意!

メチマゾール(MMI;Methimazole)
 もしくはチアマゾール(Thiamazole)

(商品名メルカゾール5mg、メチマゾール)

プロピオチオウラシル(PTU;Propylthiouracil)
(商品名プロバジール50mgやチウラジール50mg)

薬物治療において妊娠中は薬剤の選択が重要になります。
メルカゾール(MMI)の方が効果の面、副作用の面から使用しやすいのですが、メルカゾールは妊娠初期の胎児奇形の原因となり得るため「MMIは妊娠4週から7週までは使用しない方が無難」とガイドラインにも記載されています。そのため妊娠初期は可能であればPTUへ変更が勧められます。

授乳中は母乳に移行する量がより少ないPTUが勧められます。 ただ、MMIなら1日10mg以下、PTUなら1日300mg以下なら断乳の必要はないとされています。

重要なこと
甲状腺機能亢進症があり内服治療中の方で、妊娠を望んでいる場合は甲状腺を管理してもらっている内科で妊娠を望んでいることを伝えておくことと、妊娠が分かったらなるべくはやくかかりつけの内科を受診するようにしてください。 妊娠により甲状腺機能が変動し、薬剤の種類や量の変更となる可能性がありますので。 また、妊娠初期のMMIからPTUへの変更は、甲状腺機能のコントロールを優先するために不可能なことがありますので、この辺は産科医、内科医とも相談の上、治療方針を決定することも重要ですね。

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甲状腺機能低下症(橋本病)と妊娠

橋本病とは

甲状腺機能が低下することを甲状腺機能低下症といいます。その中でも橋本病は甲状腺機能低下症の代表的な疾患です。 バセドウ病と同じで圧倒的に女性に多い病気です。

バセドウ病のように派手な症状がなく元気がなくなる系なのでぱっと見で診断されにくいので、橋本病があるのでは?と疑いを持つことが重要です。 橋本病では「抗サイログロブリン抗体」と「甲状腺ペルオキシダーゼ抗体」のどちらかもしくは片方が陽性となります。

橋本病の妊娠中の管理

橋本病が妊娠に与える影響はバセドウ病と似ています。 流産や早産、死産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群などです。 TSHのみ高値でFT4は正常値の状態を「潜在性甲状腺機能低下症」といいますが、この場合も流早産が多いと報告されています。

甲状腺ホルモンは胎児の中枢神経系の発育にとても重要なので妊娠中の母体への甲状腺ホルモンの補充が必要となります。 甲状腺ホルモンの補充は

レボチロキシン
(商品名;チラーヂンS12.5μg~100μg、レボチロキシンNa)

妊娠中の変動はバセドウ病と同じで妊娠初期に一時悪くなり、妊娠中期から後期に改善し、分娩後に再度悪くなる傾向があります。




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