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胚凍結保存と移植

ここでは、現在ARTを行っているほとんどの施設で行われている重要な技術である、胚の凍結について解説します。

胚を凍結保存するということ

IVF-ETの際に複数個の受精卵が発生したとき、良好胚をえらんで移植しても胚が余るときがあります。
そのような場合に胚を凍結して分裂を停止させ長期保存する技術があります。
これを胚の凍結保存といい、現代のARTには欠かせない技術です。
凍結していた胚は解凍して移植を行うことができます(凍結融解胚移植)。

保存技術が進歩して液体窒素(マイナス196度)の中で、理論的にほぼ半永久的に保存を行うことができるようになりました。一人目のお子さんが生まれてしばらくして、一人目のお子さんが妊娠する前に保存していた胚を移植し妊娠することも可能となりますね。その場合、兄弟で年齢は違いますが、受精したのは同じ日という不思議なことが起きます。
20年くらい前から存在している技術なので、ヒトではまだそんなに長期保存の例は少ないですが、マウスの胚を25年後に移植して正常な妊娠、出産も確認されています。

胚を凍結するといっても簡単なことではありません、これまでに沢山の研究が行われて現在の方法が確立されてきました。生きた細胞である胚を凍結保存して、分割を停止させ(胚の時間を止めることになりますね)、一定の期間保存し、今度は解凍して分割を再開させ、着床、妊娠継続に持っていくことは非常に大変なことなんです。

アイスコーヒーなどに入れる氷を作ることを考えてみてください。
製氷用のプラスチックの容器に水をいれ、冷凍庫にいれます。数時間すると氷ができますが、その氷をみると容器から氷の表面が盛り上がって体積が増えていたり、割れて亀裂が入っていたりしますよね。胚を含んだ培養液をそのまま凍結させても、胚の中の水分が結晶化して胚が内部から破壊されたり、浸透圧の関係で胚が膨張したり、縮小したり、培養液に亀裂が入りたまたまその亀裂に胚が存在すると胚が外部から破壊されたりしてしまいます。

そのような胚の凍結保存も、保存液を含めた技術的な進歩により、今では一般的に行われるようになりました。
日本で年間約4万件の新鮮胚を用いたIVF-ETが行われていますが、凍結融解胚移植は3万件を越えており、新鮮胚に追いつこうかという勢いです。
凍結融解胚移植による出生児も年間5000人を越えています(新鮮胚では年間6000人以上です)。

凍結融解胚移植の成績

妊娠率の高さや流産率の低さは新鮮胚を用いたIVF-ETを若干越える好成績です。
しかし、凍結融解胚移植が圧倒的に有利かというとそこまではありません。
ただ、凍結融解胚移植の技術が進歩したことは事実です。
新鮮な胚を移植する場合と、長いと数年経った後に移植した場合がほぼ同じような結果なんですからね。

どんなときに胚を凍結保存するのか?

移植後に胚が余った場合がまずあげられます(余剰胚の保存)。
いくら沢山の受精卵ができても、一度に移植できる数は多くて3個以下ですので、余った胚は原則、凍結保存することができます。 何らかの理由で新鮮胚の移植が中止となった場合にも保存されます。
たとえば採卵数が多くなり、移植を行うことでOHSSの発生が予想されるときや子宮内膜の厚さが十分ではなく、移植時期が適切だと判断されなかった場合です。
そのようなときは全胚凍結保存が行われます。

また前核期胚、初期胚、胚盤胞のどの段階でも凍結保存が可能です。
良好な胚を凍結保存しておくことでOHSSによる母体合併症の抑制や卵巣刺激や採卵による身体的、経済的負担を軽減させることができます。

凍結保存期間は?

基本的には半永久的に保存することができます。理論的には数百年でも可能といいます。
しかし、いつまで保存するかは最初に、きちっとした文書を作成して取り決めをしておかないといろいろな問題が出てきます。保存途中で夫婦のどちらかが死亡した場合、残った胚をどのようにするのかなどは非常にデリケートな問題ですね。
また、長期保存をすることで保存する胚の数がどんどん増えて、施設内で保存するスペースもなくなってきます。
欧米では一般的に5年、延長して10年ほどといわれています。

凍結保存の方法

胚凍結の際にもっとも問題となるのは氷の結晶ができることです。
細胞をそのまま冷凍すると氷の結晶が細胞内部に発生し細胞が破壊されてしまいます。いかに結晶を作らないように凍結するかが重要になります。

現在凍結の方法としては2種類あります。
従来から行われている緩慢凍結法(slow cooling法)ガラス化凍結法(vitrification:ヴィトリフィケーション)です。

緩慢法はゆっくりと冷凍して細胞のダメージを少なくしようという方法です。
高価なコンピューター制御のフリーザーを使用し、長時間かけて凍結するという手間と費用がかかりますが、機械の操作などが決まっていますので保存に差ができずに安定した成績を得ることが可能となります。しかし、氷の結晶を完全には抑制できない可能性があります。

一方ガラス化法は高価なフリーザーを必要とせず、簡短時間で胚を凍結することができますが、ガラス化を行う際に素早くきちっとした処理が必要となり、より厳密性が要求されます。しかし適切にガラス化が行えれば、氷の結晶をほぼ完全に抑制でき保存性が高くなるといわれています。

凍結融解胚移植の方法

胚は凍結するときと融解するときに、ダメージを受ける可能性があります。
そのためすべての凍結胚が良好な状態で移植を行えるかというとそうではありません。融解しても元の状態にもどらない胚もでてきます。

融解後にしばらく培養を行い、胚の状態を確認して移植を行います。どの段階の胚を凍結したかで融解後の培養期間も違いがでてきます。初期胚の場合は融解後、時間をおかずに初期胚の段階で移植することもありますし、胚盤胞まで発生することを確認して移植することもあります。

着床、妊娠継続のためには、子宮の内膜の状態やホルモンの状態が重要なので、いつ移植してもよいというわけではありません。移植する胚の発生状態に子宮の環境を同調させて移植のプランを立てます。 移植する際に薬剤を使用しない自然排卵周期にあわせて移植する方法と、ホルモン剤で人工的に環境を整えて移植する方法があります。後者の方が移植時期をコントロールしやすい利点がありますね。

自然周期で胚移植を行うときは、経膣超音波で卵胞の測定を行い、排卵が近いと判断したらhCGの投与で排卵推定時刻を予想し、同調させて胚移植を行います。

ホルモン剤を使用した周期での胚移植は、エストロゲンを月経初期から投与し同時にスプレキュア等で内因性のLH分泌を抑制し、子宮内膜の状態を確認し移植が行われます。
この場合は当然luteal supportが必要となります。

凍結による影響

胚凍結による先天性異常の割合は新鮮胚の場合と変わらないと報告されています。
凍結に使用される耐凍剤や凍結保存により胚の周囲に存在する透明体が硬くなるといわれています。(透明体の硬化)そのため、妊娠率向上のため、assisted hatching(AHA)が併用されることもあります。

卵の段階で凍結できるのか?

現在の技術では受精していない卵子をそのまま保存しても、胚の保存ほどの妊娠率は得られていません。未受精の卵子は受精した胚よりも安定しておらず、染色体異常が増えるといわれています。
まだ実用段階ではないようです。


 

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